「AI活用は専任のIT部門やDX人材がいる大企業の話」——そう感じている個人事業主・中小企業の担当者は多いのではないでしょうか。
しかし奈良・京都南部で注文住宅、不動産、介護など幅広い事業を展開する中小企業「アイニコグループ」は、専任IT部門もAIに詳しい専門人材もいない状態から全10事業部でAI活用を横展開し、部門によっては年間1,368時間の業務削減という成果を生み出しました。しかも、その原動力になったのは社員自身が業務に合わせてAIツールを工夫・自作する動きだったといいます。
この記事では、アイニコグループの取り組みを「特別な技術力がなくても、片手間からAI活用を広げていくにはどうすればいいか」という視点で整理します。
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アイニコグループとは:専任IT部門を持たない中小企業
アイニコグループ株式会社(旧・株式会社楓工務店)は、1997年創業、奈良県奈良市に本社を置く中小企業です。もともとは注文住宅を手がける工務店でしたが、事業の多角化にともない2024年7月に現社名へ変更し、現在は次のような幅広い事業を展開しています。
- 注文住宅・リフォーム/リノベーション事業
- 不動産事業
- 介護事業
- 保育園事業
- 民泊事業
- 企業向けIT/DX研修支援事業
- 業務管理SaaS事業(BOXJOB) など
これだけ幅広い事業を抱えながらも、専任のIT部門やAIに詳しい専門人材はいません。それでも2024年後半から全10事業部でAI活用が急速に広がり、業務削減という具体的な成果につながっています。「うちには詳しい人がいないから」とAI活用を諦めがちな中小企業にとって、参考になる部分が多い事例です。
IT部門なしでも全社に広がった理由:現場主導のプロジェクト設計
アイニコグループがAI活用に本格的に着手したきっかけは2024年8月、外部のAI専門家を招いた全社向け「AI勉強会」の開催でした。同年10月には外部のAI導入支援会社(株式会社THA)の協力を得て「AI活用プロジェクト」へと発展させました。
このプロジェクトの特徴は、外部企業に丸投げする「研修型」ではなく、各事業部が自分たちで「AIを活用してどうなりたいか」というゴールを設定する形式だったことです。
- 不動産、介護、リノベ、設計・IC、監理課・分譲、コンシェルジュ、広報など全10事業部が参加
- 各部門から人員を出し合い、部門横断のワーキンググループを結成
- 毎週オンライン会議を継続し、3か月・6か月・12か月をマイルストーンに実行計画を策定
- 広報企画部の担当者が各事業部に「どういう業務を効率化したいか」を丁寧にヒアリングし、現場の課題を吸い上げる
つまり、AIツールの選定や使い方を上から一方的に押し付けるのではなく、現場の「困りごと」を起点にAI活用のテーマを決めていったことが、専任IT部門なしでも全社展開できた最大の要因だといえます。
部門ごとの取り組み事例:Before/Afterで見る業務削減
各事業部の具体的な取り組みをいくつか紹介します。使っているのはChatGPT、Claude、Gemini、Google WorkspaceのAI機能、身近なローコードツールのGoogle Apps Script(GAS)など、いずれも個人や中小企業でも手が届くツールです。
広報企画部:最大の数字として発表された年間1,368時間の削減
今回の発表で最も大きな数字として示されたのが広報企画部の成果です。GoogleフォームやGmail、ChatGPT、社内チャットツールのChatworkを連携させ、週次・月次の各種通知や広告レポート分析といった業務をAIで自動化しました。名刺画像をGemini APIで読み取り、データ入力を自動化する仕組みも導入しています。
こうした地道な自動化の積み重ねにより、広報企画部が主導した取り組みによる削減時間として年間1,368時間(前年比約1.5倍の削減効果)という成果が発表されました。なお、この1,368時間は全社合計ではなく広報企画部単体の数字です。次に紹介する介護事業部は月間約150時間、年換算すると約1,800時間の削減効果があり、単純な年間ベースの比較では介護事業部の方が数字は大きくなりますが、同様の効率化の動きが他部門にも広がっている点にこそ、この事例の本当の価値があります。
介護事業部:月間約150時間(年換算で約1,800時間)を削減
高齢者向けのAI相談システムを独自に開発し、会話履歴をケアプラン作成に反映する仕組みを構築。あわせて送迎ルートの最適化にもAIを活用し、月間約150時間(年換算で約1,800時間)の業務削減を実現しました。
リノベーション事業部:月間約70時間を削減
「リフォーム何でも教えてくれる君」という愛称のAIツールを使い、顧客ヒアリング内容や質問リストの自動生成、補助金申請の進捗管理、概算見積もり作成を効率化。月間約70時間の削減につながっています。
設計監理部:身近なツールで自動化を内製
設計監理部IC課では、Chatworkでの依頼文自動送信や図面データの一部自動入力で、定型依頼のミスを防止(年間約21時間削減)。さらに監理課ではChatGPTでの評価表作成に加え、GAS(Google Apps Script)を使った予算発注書の自動作成、Pythonと画像処理ライブラリのOpenCVを使った図面差分抽出にも取り組み、年間約90時間の削減を実現しました。

社員が自分でツールを作る、を実現した3つのポイント
専任IT部門がないにもかかわらず、社員自身がツールを工夫・自作するところまで進んだ背景には、次のような共通点があります。
1. 現場の「困りごと」からスタートする
最初にツールありきで進めるのではなく、「どの業務が面倒か」「効率化されたら何が楽になるか」を各部門にヒアリングすることから始めています。使う側の当事者意識があるからこそ、ツールが定着しやすくなります。
2. スモールスタート・無料ツール優先
高価な専用システムを一気に導入するのではなく、ChatGPT・Gemini・Google Workspaceなど、すでに手元にあるツールや無料で使えるツールから着手しています。失敗してもコストが小さいため、試行錯誤を繰り返しやすい環境が整っていました。
3. 部門横断での共有と、ゆるやかな競争
毎週のワーキンググループで各部門の取り組みを共有し合うことで、「あの部署はこんな使い方をしている」という気づきが横展開されていきました。同社代表の田尻忠義氏は「今回の発表を聞いて、正直8割は理解できませんでした。でも、それでいいと思っています。なぜなら、社員が私の理解を超えるスピードで進化している証拠だからです」とコメントしており、経営層が細部を管理しすぎず、現場の自走を後押しした点も特徴的です。
片手間からAI活用を広げるなら、まずどこから始めるか
アイニコグループの事例からは、個人事業主や中小企業の担当者がすぐに取り入れられるヒントがいくつも見つかります。
- まずは自分の「面倒な定型業務」をひとつ書き出す:資料作成、問い合わせ対応の下書き、データ入力など、日々の「ちょっと面倒」を言語化するところから始める
- 手元にある無料・低コストのAIツールで試す:ChatGPT、Gemini、Claudeなど、すでに使えるツールでまず小さく試してみる
- うまくいった工夫は周囲に共有する:一人で完結させず、同僚や取引先と共有することで、思わぬ横展開が生まれることがある
- 完璧を目指さず「前年比◯%削減できればOK」くらいの気持ちで始める:アイニコグループも最初から1,368時間削減を狙っていたわけではなく、小さな自動化の積み重ねが結果につながっています
専任のIT部門やAI専門人材がいなくても、身近な業務のひとつから片手間にAI活用を始めることは十分に可能です。アイニコグループの事例は、そのことを具体的な数字とともに示してくれています。
まとめ
- アイニコグループは専任IT部門を持たない中小企業ながら、全10事業部でAI活用を横展開している
- 現場主導のヒアリングとスモールスタートにより、広報企画部門では年間1,368時間の業務削減を実現(全社合計ではなく一部門の成果である点には注意)
- 介護・リノベーション・設計監理など各部門でも、ChatGPTやGemini、GASなど身近なツールを使った自動化が進んでいる
- ポイントは「困りごとから始める」「無料ツールでスモールスタート」「取り組みを共有する」の3つ
- 特別な技術力がなくても、身近な定型業務ひとつから片手間でAI活用を始められる
社員自身がAIを使ってツールを自作する流れをもっと具体的に知りたい方は、初心者向けClaudeでウェブアプリを作る方法もあわせてご覧ください。
出典: 「IT部門」を持たない中小企業が、AIで年間1368時間の業務削減を実現できたワケ(ITmedia ビジネスオンライン) / 年間1,368時間の業務削減も!AIを「使う」から「活かす」へ。工務店が1年で築いた「現場発案のAI文化」とは?(アイニコグループ株式会社 公式)


